クルマの整備の中でも大きなもののひとつがAT。トラブルが発生すると走行不能になってしまうケースもあるので怖い部分でもあります。この記事ではATのメンテナンスとオーバーホール(分解整備)について解説します。
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目次
ATは消耗品であることを認識したい
まずは、ATのメンテナンスとしてオーバーホールがなぜ必要になるのかを解説していこう。ATにはMTのクラッチと同じく摩擦材が使われている。クラッチディスクはもちろん、クラッチドラムの回転をコントロールするブレーキバンドにも摩擦材が備わっており、これらの摩擦材が消耗してしまうと変速不良が起きるのだ。また、クラッチディスクが完全に摩耗していなくても、一部分だけ剥離するという状況でも変速不良は起こる。
さらに、剥離した摩擦材がATFに混ざってしまうと、細い油圧経路にスラッジが溜まりやすいという、構造上避けることのできない弱点もあるのだ。そのためATF管理が悪いと、油圧経路はより汚れやすくなる。こうなると、規定以上の油圧をかけないと変速動作をしないという状況になり、これが原因でバブルボディ内部の小さなスプリングが折れたり、クラッチドラムの摩耗を促進させるなど数々のトラブルを招く。
ATは大きく分けて、機械式と電子制御式があるが、トルクコンバータタイプは基本的にこのような構造になっている。摩擦材を削りながら変速しているようなものなので、定期的なオーバーホールが必要になるわけだ。
オーバーホールの内容としては、ATを分解して入念な洗浄、点検、消耗品の交換というのが基本メニュー。消耗品としては摩擦材が備わるドライブプレートやドリブンプレートなどのクラッチディスク、さらにブレーキバンド、バキュームレギューレータ、クラッチドラム、バルブボディのリターンスプリングなども状態によっては交換される。ゴムパッキンやゴムシールはオーバーホールキットとして用意されていることがほとんどだ。また、点検の際にパーツが再使用できるかの見極めが重要であり、ここはメカニックの経験と知識が求められる部分である。
機械式ATの構造は複雑でその組み付けは簡単ではないが、慣れてしまえばエンジンのオーバーホールよりは簡単だと言うメカニックは意外に多い。しかし、組み付けるメカニックの腕次第で、フィーリングが大きく変わってしまうことは事実だ。
各部のクリアランス調整などはエンジンほどシビアではないが、変速タイミングの調整、シフトショックの大小などは、組む人によって電子制御のATより差が出やすい。操作ケーブルやバキュームボックスなど、ATの外部に備わるパーツの調整具合によってもフィーリングは大きく変わる。内部の消耗品の交換だけではなく、十分な走行テストも絶対に欠かせないのが機械式ATオーバーホールの特長だ。
現在主流である電子制御式ATのオーバーホールは、機械式のそれに加えて電気的なパーツの交換と専用のテスターが必要になる。変速を行なう油圧のコントロールにコンピュータを使っているため、変速トラブルが発生した時にはその探求個所が広いことも電子制御ATの特長だ。速度、アクセル開度、セレクタポジションなどは、メインコンピュータとリンクしているため、エンジン側のセンサートラブルが原因でATの調子が悪くなることもある。
また、電気スイッチなどは軽量化のために樹脂が多用されており、これが熱によって変形してしまうというトラブルも起こる。そのため機械式よりも点検範囲が広く、交換が必要なパーツも多くなるのでオーバーホールの費用は電子制御ATの方がどうしても割高になってしまうのだ。
また近年のモデルでは、ツインクラッチ機構を持つATがあり、こちらは一般的なトルクコンバーター式に比べて複雑な構造となっている。そのためトラブルが起きた際はそのクルマに詳しい修理工場で点検してもらうようにしたい。
トラブルの予兆が出たら
早めに修理工場で点検してもらうことが大切
このように機械式、電子制御式に関わらずATは消耗品であり定期的なオーバーホールは欠かせないわけだが、どのタイミングでオーバーホールを行なうかが重要。完全に壊れてからオーバーホールをするのと、その前に行なうのとでは状況が大きく変わるということは知っておきたい。オーバーホールのベースとなるのは、あくまでも自分のクルマのATであり、状態がひどければそれだけ交換するパーツが増え、通常なら再使用できる高価なパーツまで交換しなければならないケースもあるのだ。
機械式の場合、シフトショックが異常に大きくなったり、変速タイミングに違和感を感じるようになってきたらオーバーホールの時期。電子制御式の場合は、異常が発生すると3速固定になるエマージェンシーモードになるので機械式に比べると分かりやすい。ただし、エマージェンシーモードに入ったからといって必ずオーバーホールが必要になるわけではない。センサーや基板など電気的な不良によるものもあるから、ATを降ろさずに部品交換だけで直ってしまうこともある。いずれにせよ、いつもと違うと感じたら早めに専門の修理工場で点検してもらおう。
ATを長持ちさせるためにはATFを常にキレイな状態にしておくことが大切。摩擦材で油圧経路を詰まらせないためにも、フィルターも含めて定期的に交換しておきたいところ。また、丁寧な操作を心がけることでATの寿命を延ばすこともできるので、RレンジからDレンジに入れるときはクルマが完全に停止した状態でシフトチェンジするなど、気を配っておくことが大切である。
今回のようなメンテナンスに関する詳しい修理方法はプロに聞くのが一番!
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